人生最後に食べたいもの
初回投稿日:2019-10-16 更新日:2022-03-13
生れてからずっと食べているお米。我が家の朝は、炊き立てごはんにお味噌汁でした。子供の頃はトーストで始まる朝に憧れて父と戦ったこともあります。
それでも、いつしかまたお米党に。今やっと、子供時代の朝食の贅沢であったことが分かるようになりました。
感動のお米「つや姫」
それまでにも、米どころと言われる土地のお米をいただいたことはありました。どれもとても美味しかった。
けれど、土地土地の名物の盛られたお皿を前にしては、あっという間に脇役に。
初めての経験でした。メインディッシュを忘れてごはんに夢中になったのは。つややかで、柔らかさと弾力のバランスがとてもいい。
頬張ると甘みが口いっぱいに広がって、気づくとメインの料理を置いたまま、二口三口とごはんを食べる手がとまらない。
初めての山形で、最初に入った食堂はカツの専門店。ごはん、千切りキャベツ、お味噌汁がおかわりできます。
周りを見ると、ごはんのおかわりをお願いする人で店員さんは忙しそうです。キャベツもお味噌汁もおかわり自由であるお店で、みんな「ごはんをお願いします」とお茶碗を差し出す。
「私も」と思いましたが、ついに店員さんが私のところまで回って来てくださるまでは待つことができず、残念に思いながらお店を出ました。
(ついでになってしまいましたが、メインのトンカツも勿論サクサクとしてとても美味しかったです。)
忘れられない味をどうしても持ち帰りたくて、お土産用に小さなお米をいくつか買いました。「つや姫」。最高のお米です。
父のこだわりはガス炊飯器
亡くなった父は食にうるさい人でした。ごはんの炊き方にもこだわりがあり、我が家はずっとガス炊飯器でお米を炊いていました。
冬場のお水は凍みるほど冷たい。どんなに冷たくてもお米を研ぐのはお水でなければなりません。
今では古いやり方だと言われたりもしますが、お米は力を入れてギュッギュッと研ぐ。子供の頃見ていたお米を洗う母の背中は、どこか勇ましい感じがしていました。
父に言わせれば、ガス炊飯器の良さは火力と絶妙な火加減にある。それは電気炊飯器には絶対にまねできないことで、お米の炊き上がりに決定的な差が出るのだと言います。
父が亡くなって暫くして、我が家も電気炊飯器に替えたのですが、最初の頃は、確かにガス炊飯器との差を感じ、そのたび父を思い出したものです。
それから、電気炊飯器はどんどん改良され、今では十分満足できるご飯をいただけるようになりました。
一人暮らしに何はなくとも白いごはん
フリーランスで仕事をするようになって、今月いくらで生活できるのか、まったくもって分からなくなりました。
月末、貯金通帳を眺めながら「来月はなんとかなりそうだ」と思うと、スーパーに2kgのお米を買いに行きます。
これが今月のごはん。
買って帰ると早速ごはんを炊きます。以前は2合で9~10回分に小分けして冷凍していましたが、家で仕事をするようになってからは、せいぜい6回分。
1回に食べる量が格段に増えてしまいました。
お米は冷蔵庫の野菜室に入れています。
ごはんを炊くとほっとします。「人としての生活ができている」と思える。ごはんを食べている間だけは「まだ大丈夫」と感じられる。
上手く表現できませんが、明日を信じる力が湧いてくる気がするのです。
私のごはんの炊き方
お米は丁寧に計ります。きっかり2合。計量カップを使って慎重に。
水道のお水が冷たくなってくると、しゃもじを使ってお米を洗います。ボールにざるを重ねて、水道水を流しながらお米を軽くかき混ぜる。
ざるを上げて、下に受けているボールの水を捨てて、しゃもじの背でお米をギュッギュッと押さえる。
これを3~4回繰り返し、あとはお水が透明になるまで数回お水を替えます。洗ったお米はざるに上げて、5~10分程度、軽く水切りします。
お米を炊くお水は、ペットボトルのミネラルウォーターを使います。炊飯器の釜に洗って水切りしたお米を移して、規定の線までミネラルウォーターを注ぎます。
お米に特別な記載など何もなければ、お水の量はオンライン。規定線ちょうどまで。「新米」と輝かしいシールが貼られている場合は、規定線下すれすれまで。普通より少し少なめです。
お水を注いだら、お釜を1時間くらい冷蔵庫に入れておきます。その後、炊飯器で「白米急速」モードでごはんを炊きます。
儀式
ごはんが炊けると、10分程度蒸らしたあと、料理計りに耐熱性のサランラップを敷いて、炊き上がったごはんを140gずつの小分けにします。
(以前は100gで十分満足だったのですが、自宅にいるようになって食べる量が増えてしまいました。)
1膳分を残すと大体6つくらいの小分けができるので、温かいうちに冷凍庫に入れます。
どうした理由だか、自分でも分からないのですが、一人暮らしを始めてからずっと、ごはんを炊いた後は、炊飯器にお礼をいいます。
「今日も美味しいごはんを炊いてくださってありがとう」
大事に布巾で炊飯器全体を拭いていると、不思議ですが、慈しむような気持が湧いてきます。
そのおかげでしょうか、今のマンションに引っ越してからずっと炊飯器は壊れずにいてくれています。もう12年になります。
最近、炊き上がりに少しムラが出てきました。祈るような気持ちで、使っています。
炊き立てごはんはそれだけでご馳走
ごはんを炊いたその日は、おかずは特に用意しません。
炊き立てのごはんのお供はシンプルであればあるほどいい。
生卵。梅干し。おかか。海苔。冬なら大根や人参、キャベツや白菜のぬか漬け。ちりめんじゃこ。時々は、苦手な納豆が欲しくなることも。
どれか一つとお醤油で十分。
卵はあまり好きではないのに、ごはんを炊いたときだけは、新鮮卵で卵かけごはんが欲しくなります。
お醤油は少し多めにかけますが、とろりと濃厚な黄身と白身があつあつのごはん一粒一粒に絡まって、栄養が全身にいきわたるようです。
お醤油は重要。罪悪感を減らすために、減塩マークのついたお醤油をいつも冷蔵庫にスタンバイさせています。
どんなに落ち込んでいても、重い腰を上げて、やっとの思いで炊飯器のスイッチを入れたら、ごはんが炊き上がるまでには少し気持ちが晴れている。
炊き立てのごはんを一口含んで思う。「極上!」もう大丈夫。
おにぎり?おむすび?
誰が言い始めたのだろうと思います。「おにぎり」「おむすび」関西と関東の違いでしょうか。いずれにしても、どちらの名前もあったかい。
最高のネーミングだと思います。
祖母のおにぎり
亡くなった祖母のおにぎりは、お塩がしっかり効いた三角むすびでした。ころんとした形で、炊き立てのご飯を冷ますことなくむすんでくれます。
手のひらは真っ赤でしたが、幼いころは、祖母の手のひらを思いやるより、あったかいおにぎりが食べられることが嬉しくて仕方ありませんでした。
大人になって、祖母のおにぎりを思い出して真似てみましたが、炊き立てごはんは手のひらに熱すぎて、思わず投げ出してしまったり、ころんとしたフォルムを真似しようとして、にぎり方がゆるすぎて食べる前に崩れてしまったり。
同じようにはできませんでした。
おにぎりは奥が深い。
いもうとのおにぎり
父が亡くなって、母と二人。まだ初七日も明けない頃、結婚したいもうとがおにぎりを持ってきてくれました。
祖母のおにぎりです。
実家に来るまでに1時間近くかかったはずなのに、温かい。妹の手のひらも温かく、まだ赤みが引いていませんでした。
おにぎりの温かさは、作る人の温かさ、食べる人への優しい思いやりです。
人生最後に食べたいもの
「人生最後に何が食べたいか」と聞かれたら、私は迷わず「お米」と答えます。炊き立てであれば、他に何もいりません。
湯気の立つ白いごはんとともに来し方に思いを巡らせゆっくりと頬張る。思い残すことは何もないような気がします。
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