迷子の日記。行ったり来たり。

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【現代短歌】バレンタインに読みたい短歌

初回投稿日:2020/02/14 

バレンタインデーですね。今日ぐらいは、瑣末なことは置いておいて、恋のことなど考えるのもいいものです。

 

特別な人がいてもいなくても、振り返る思い出があってもなくても。

 

バレンタインにふさわしい短歌をいくつか挙げてみました。有名な歌が多いのですが、読む人ごとに見える風景は違っているのだろうなあと思います。

 

【恋の歌リスト】

きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えむとする

寺山修司『血と麦』昭和37年

恋の始まりの頃は、何もない。何もいらない。あなたさえいれば。きっと誰でもそんな時間を過ごしているはず。

 

相手の鼻歌も含めて、二人の部屋。一緒に暮らす準備の中で、一番大切なものとして置かれる。ただただ幸せに感じられます。

 

五線紙にのりさうだなと聞いてゐる遠い電話に弾むきみの声

小野茂樹『羊雲離散』昭和43年

昔は、遠距離恋愛は今よりずっと不自由で、だからこそ、受話器を通じて届く相手の声が愛おしい。彼女の声が、音楽を奏でるように軽やかに弾んで聞こえる。

 

彼女をいとおしむ彼の心情だけでなく、彼女の想いまで伝わってきます。

 

あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ

小野茂樹『羊雲離散』昭和43年

相手の表情や仕草の全てが愛おしく、どうにかしてその瞬間を切り取ってしまっておきたい気持ちになる。

 

そんな出会った頃の初々しい関係も、時間が経つと薄らいできて、少しずつ互いの気持ちにズレが生じる。そんな関係をどうにかしたいと焦っている。

 

もしかしたら、終わりを予感しているのかもしれません。離れているのが相手の気持ちなのか、自分の気持ちなのか分からないけれど。

 

サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝(なれ)を愛する理由はいらず

佐佐木幸綱 合同歌集『緑晶』昭和35年

恋に理由はいらないのです!

 

好きになった理由が挙げられるうちは、まだ「恋」とは呼ばないのかもしれません。

 

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか

河野裕子『森のやうに獣のやうに』昭和47年

河野裕子は、のちに永田和弘(後出)と結婚しています。

 

ロマンチックな歌です。強引にさらっていってくれたら、不安や迷いなど全て飛んで行ってしまうのに。

 

子供の頃からずっと憧れていた世界です。

 

動こうとしないおまえのずぶ濡れの髪ずぶ濡れの肩 いじっぱり!

永田和弘『メビウスの地平』昭和50年

永田和弘は河野裕子(前出)と結婚しています。

 

一度くらいは、こんな経験ありませんか?彼女は、ただ腹が立って相手に抗議しているのではないのです。ただ意地を張っているわけでもありません。

 

相手に甘える気持ち。ちょっぴり困らせてみたい気持ち。「どれくらい困らせたら本気で怒るかしら?」なんて相手を試してみたい気持ち。

 

そんな感じじゃないのかなあ…とつい、微笑ましく読んでしまいます。

 

観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)

栗木京子『水惑星』昭和59年

ずっと憧れていた人とやっとデートの約束ができました。相手はきっととても人気のある人なのでしょう。

 

遊びに行った遊園地で観覧車に乗る。

 

夢のような状況なのに、心のどこかで「私は決してこの日を忘れることはないけれど、あなたにとっては、きっと、すぐに消えてしまうたった一日の出来事なのでしょう」と思ってしまう。

 

幸せだけれど寂しい。片恋の切なさが伝わってきて苦しくなります。

 

トルソーの静寂を恋ふといふ君の傍辺(かたへ)に生ある我の坐らな

栗木京子『水惑星』昭和59年

デッサンなどに使う石膏でできた胸像を「トルソー」と言います。結構大きくて、運ぶ時にはトルソーの脇と腰のあたりにしっかりと腕を回さなければ上手く運べません。

 

ちょうど抱きつくような格好になるのですが、その時の石膏のひんやりとした感覚が少しエロティックです。

 

恋する相手が、自分の横に座って、そんなトルソーが好きだと話している。芸術論を熱く語っているのかもしれません。

 

そんな彼に「ここにいる私を見て。生身の私を見て」と訴える、声に出せない切ない思いが聞こえてくるようです。

 

君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ

俵万智『サラダ記念日』昭和62年

恋しているときは何もいらないのです。相手さえいてくれれば、一緒に食べるものは何でも美味しいし、一緒に行く場所は何処でも楽しい。

 

「あなたさえいれば」恋の本質ですね。

 

  

君にちかふ阿蘇のけむりの絶ゆるとも万葉集の歌ほろぶとも

吉井 勇『酒ほがひ』明治43年

この歌に焦がれました。最高の永遠の誓いです。

 

・・・幻想であっても。

 

 

 

【過去記事】 

i-am-an-easy-going.hatenablog.com