初回投稿日:2020/02/24 最終更新日:2023/08/29
先日職場で、楽な靴について話題になりました。「そりゃあ、スリッポンよねえ」と一人が言います。
スリッポンというのは、金具がなく、足を差し入れるだけで履けるデザインの靴です。
私は左右の足の大きさが0.5㎝も違い、外反母趾など形も良くないので、靴(主にパンプス)は基本的にベルトがなければ安定して履けません。
しかも、上の写真のようなスリッポンシューズは、踵が必ず靴擦れを起こしてしまいます。
好きなのは羊革のパンプスか踵があいたサンダルかミュールです。
「だったら、商店街の端っこに今も手作りの靴を作っているお店があるわよ。創業6~70年になる老舗だから一度行ってごらんなさい」
社長のお母様から教えていただいたお店を訪ねてみました。
最初は、土曜日の夕方。出勤の日でしたので、会社が終わってからの商店街は、閉店まであまり余裕がなく、慌ただしく端から端まで歩きました。
けれど、歩いても歩いても、結局、お店を見つけることはできませんでした。
今日はとても良い天気でした。春そのもの。
部屋に籠るには勿体ない陽気だったので、再び、靴屋さんを探しに商店街へでかけました。
やっと見つけたお店は、本当に、商店街の端っこ。しかも、少し角を曲がったところにありました。
これは見つけられないな、と思いながら、小さなお店の扉を開けます。
あれ?誰もいない?
「ごめんください」声をかけてみます。
「はあい」ゆっくりと店主さんが階段から降りてこられました。
「ミュールを探しているのですが」と声をかけると
「悪いねえ。もう年と病気とで靴はここにあるだけ、もう作れないんだよ。ここにあるのをね売り切ったら店を閉めるつもりなんだ」とおっしゃいます。
色々な彩色や型押しを施した革でバリエーションが豊かだと伺っていました。春らしい白色のミュールが欲しいなと思って出かけてきました。
「気に入った色がないとね、”何色がいいの”って聞いてくださって、オーダーメイドできるのよ。何か月もかかるかと思ったら10日もかからないで作ってくださるの」そんな話を伺って、ウキウキしながら訪ねたのに。
確かに、目の前にいらっしゃる店主さんに、これ以上のことを望むのは酷なようです。
「それは残念ですね」というと、「何センチ?」やっと足のサイズを聞いてくださいました。
サイズを告げると、ゆっくりと店内を歩いて「この辺だったかな」と靴の場所を教えてくださいます。
全て、革製。手作業です。「表に気になる靴があったんですけど、ちょっと見てきてもいいですか?」「ああ、いいよ」
茶色の型押しで、様子のいいのを見つけました。店内に持って入り「もう片方はどちらですか?」伺うと
「あれ?どこだっけなあ。・・・不思議だねえ。こういうものって探してるときは見つからないんだよねえ。靴だから、片方だけなくなることはないと思うから、どこかにはあると思うんだけどねえ。」
不思議な状況の中、それでもせっかく来たのだからと2足選びました。
「ありがとねえ。よく来てくれたねえ。ここはどうやって知ったの?」いきさつをはなすと「紹介してくれた人にもよろしく伝えておいてねえ」とおっしゃいます。
今日は、下ろしたてのメルカドバッグで出かけていました。
店主さんがふとバッグに目を留めて「これはいいバッグだねえ。とても丁寧な作りだ」
「メキシコ製なんです。」
「ああ、そう。日本製じゃないんだねえ。何でできてるんだろうねえ」
「ビニル製です。お水に濡れても平気なんです。」
真っ白のバッグを「ちょっといい?」と興味深そうに手に取って眺めながら「どんなに丁寧に扱っても、白だから持ち手がきっと黒ずんでくると思うけど、ビニル製だったら、食器用のスポンジで洗うといいよ。きれいになるはずだ」
バッグの話をしているのに、何だかたまらない気持になってきました。
店主さんは職人さんなのです。言葉の一言一言にモノへの慈しみが感じられます。
「2足ともね、4,500円でいいよ。消費税もいいからね。」
長年、手作りの革製の靴を値上げすることなく、6,200円で売っていたそうです。お店の前に並んでいたのは「特売品」の札が立ててありましたが、店内は何も書かれていません。それでも全て4,500円でいいよと言ってくださいました。
「嬉しいです。大事に履きます」というと、「ちょっと待ってて」と奥へ入って、カードケースの山を持ってこられます。
「記念にね、おひとつどうぞ」残りの革で作ったそうです。
選んでいると、「名前を入れてあげるから、好きな場所にこのペンで名前を書いて」
言いながら、得意げに奥から鏝(コテ)を出してこられました。
「昔ね、私がこの鏝を作ったんだ。文字や絵が描けるようにね、職人に頼んで特別に誂えた。他の店から”うちでもこの鏝を使わせてくれ”と頼まれてね。随分と分けてやったものだよ。これを使うとね、細かい線が書けるんだ」
「すごいですね」言いながら、選んだカードケースに自分の名前をローマ字で書いて渡しました。
店内には、随分と年季の入った革製のタペストリーなどがあちこちに飾られています。
サイズが合わず残念でしたが、絵を描いた靴もありました。左右別の柄がとてもおしゃれです。いいなあと思ってみていると
「ごめんねえ。あなたの字はとてもきれいだ。今の私の腕だと、この字を潰してしまう。このまま持って帰ってもらえるかね。革に書いた文字はちょっとやそっとじゃ消えないから、これで十分使えるよ。」
「悪いねえ」すまなそうな店主さんの手元が頼りなく震えています。
連休だと言うのに、商店街の外れは人通りも少なく、このお店にたどり着くまでに、シャッターの下りたたくさんの店舗を見てきました。
お店を閉める決断をするまでに、色んな時間があったのだろうと思うと胸が痛くなります。
靴はビニル袋にそれぞれ入れられ、市販の紙の手提げ袋にまとめてくださいました。「革はね本当は水に強いんだよ。汚れてきたらね、水につけて束子(たわし)で洗って陰干ししてね。そうしたらきれいに使えるよ」
革は「本当は」水に強い、と言う言葉に、ご自分の商品への矜持を感じました。
うちへ帰って、鏡の前で2足のミュールを履いてみて、もう一度出かけようと思いました。あと1~2足買っておきたいと思ったのです。
春支度に新しく買ったミュールは、一生ものとして大事に履こうと思います。
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