『トリシア・ギルドのインテリア 色の魔法に魅せられて』は、とても美しい本です。
装丁は言わずもがな*1、綴じ方も素晴らしい。
208頁の全編、鮮やかな色と写真が使われている本書は、ずっしりと重い。
これを綴るのに、針金ではなく糸が使われています。
糸綴じ。
黒、青、水色、黄緑、ピンク、紫・・・6色の糸で丁寧に綴じられているのに気づいたときの感動と言ったら。
本を作った人のこだわりが、こんなところにも感じられて、まるで子供の頃の宝箱を見つけたような幸せな気分になります。
この本のことを知ったのは、先日読んだ石田ゆり子さんのずいぶん昔のエッセイがきっかけでした。
インテリアを愛し、アンティークな小物や食器を愛するゆり子さんの日常の中にその本はありました。
日々、不安と疲労の中にあった私は、ふと、彼女の生活を追体験して見たくなります。
私はよく、読んでいる本の著者が紹介したり、その著作に出てくる本を読みます。
自分の知識や感性だけで選ぶと世界が小さくまとまって偏ってしまうので、できるだけ、そんな風にして自分の世界を広げたいと思っているからです。
ずっしりと重い本を手にし、数ページ開いた途端、一瞬、間違ったかな、と思いました。
写真に紹介されている一つ一つの部屋は、ヨーロッパの古民家。現実的ではありません。
使われている調度品も敷かれているラグも、椅子やカーテン、クッションなどのファブリックも、すっと心地良く胸に入ってこない。
何か居心地が悪い気がして、パタン、と閉じて、数日、部屋の片隅に放置していました。
ある日。
テレビもパソコンも開かない。ただ、ただ本だけ読んで一日を過ごそう。そう決めた日がありました。
それは、正式に再就職の採用をお断りして帰った日の翌日のことです。
どんなにエアコンの温度を下げても涼しくならない部屋にいて、何もする気にならず、本を開いても文字が頭に入ってこない。
こんな日には、ぼんやりと異国の写真でも眺めるに限る。
そう思い立って、片手では持ち上がらないトリシアさんの本をテーブルに運びます。
頁をパラパラとめくっては、戻る。
また、パラパラとめくって・・・繰り返しているうち、あざやかなカーテンや、ランプシェードの色。一見、ありあわせに見えるような花瓶や無造作に重ねられた古い本に、不思議な懐かしさと愛着が湧いてくる。
なんで、この本に心が動かなかったのか。数日前の自分が不思議に思えてきます。
世界は色で溢れている。
ふと、こんなフレーズが頭に浮かぶ。
最初、これをタイトルにブログを書こうかと思いました。
が、どこかで聞いたフレーズ。検索すると、あるわ、あるわ。
タイトルにするのは止めましたが、この本には色が溢れています。
そして、見ているうちに、こんな贅沢な世界に生まれてきたことを楽しんでいない自分が愚かに思えてきました。
何をクヨクヨしている。
世界はこんなにも彩り豊かなのに。
自分だけがモノクロだと勘違いして。
モノクロは、色を失うことではありません。
白と黒のたった二色だけを選ぶこと。
顔を上げれば、世界には、こんなにたくさんの色があるというのに。
不思議な感覚です。
時間を忘れて、トリシアさんの世界に浸っていたら、何だか急に、この世に生を受けたことが幸運なことのように思われてきました。
難しいことは考えず、ただ、ぼんやりと色の世界に浸ってみるのもいいものです。
トリシアさんの本を知るきっかけになった、石田ゆり子さんのエッセイ本はこちらです。
【その他の本に関する記事】
*1:言うまでもなく。もちろん。