初回投稿日:2020/08/30/162230
物語は、ある日ゴミを捨てに行ったまま失踪してしまった息子の行方を追う母親の錯綜した推理で話が進んで行く。
『九月が永遠に続けば』は、沼田まほかるさんのデビュー作です。
夫婦は他人。
けれど、親にとって子供は、自分(たち)の所有物だと、錯覚してしまう。
とくに、母親は、自分の身うちから生まれ出た我が子は、どうしても自分の一部だと思ってしまう。
子供は、親の気づかぬうちに、一個の人格を持って、別個の人格として親と向き合いはじめているというのに。
人は愚かです。
半径の長さには個人差があるけれど、常に見えている世界は、自分を中心に据えてコンパスで描いた円の中で起きる出来事。
その小さな円の中を世界の全てとして、人は、もがきながら生きている。
自分が中心の円の色さえ知らないのに、そこに、次々に吸い寄せられるように、他人の円が重なってきて、知らぬ間に、変色し、濁っていく。
全ての円の中心には、それぞれ別個の人格をもった人が据えられていて、それぞれが、重なってくる他人の円に戸惑い、うろたえます。
主人公は、失踪した息子の行方を追ううち、別れた夫やその妻、その娘、実の息子やその同級生、担任、クラスメイトなど、様々な人たちの円の中に取り込まれていきます。
自分の世界が、次第に境界を失っていく様が丁寧に描かれている作品です。
複雑に絡まる人間関係からくる緊張感が圧巻です。
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