今日、美容院へ行きました。
気づくともう15年以上お世話になっています。
カットしてくださるのはオーナーの男性で、通い始めてからずっと私の髪の毛は彼に委ねています。
「去年は、デパートも休みだったんですよねえ。」
鋏を手にしながら彼が言いました。
「そうでしたっけ」と私。
「ええ。うちも予約がどんどんキャンセルになって。ほんと、何が起こってるのか、まったくわからなくて。」
たしかに大変な一年だったけれど、はっきりとは思い出せない。
「これからどうなるんだろうと不安でしたから。忘れないと思いますよ」
カットの手を止めることなく、彼は言いました。
「忘れないと思いますよ」ということばが、ずしんとした重みでもって胸に響いた気がしました。
「状況が改善したわけじゃないけど、今は、どうすれば出かけられるか、みんなわかってきましたからね。なんとか普通にやってますけど」と続けます。
「今日は、どんなスイーツ買って帰るんですか?」にこやかに聞かれました。
甘いものに目がないこと、チョコレートが大好きなことなど他愛もないことも、話したことはきっちりとインプットされている。
覚えていてくださったのだなあと思うと悪い気はしませんが、ときどき、ギクッとすることもあります。
「うーん。目新しいケーキがないか、ちょっと地下を見て帰ります」と答えながら、私なりにしんどい一年だったはずなのに、去年、デパートが休業したことをすっかり忘れて思い出せないことが不思議に思えていました。
「結局、今ってストレスの発散のさせ方が限定されますものね。好きなものを食べるのっていいことだと思いますよ。”美味しい”って実感することぐらいなんじゃないですかね、今、発散できるのって」
オーナーはいつもあまりしゃべらない人なので、なんだか少しの会話がとても大切なことを話した気分になります。
いつもながらに優雅で無駄のない手さばきを鏡越しに見ながら、がんばってお店を開けてくださっている間は、何としてでも通い続けたいと思っていました。
昨日は母の誕生日でした。
そして5月は私の誕生月でもあります。
お寿司とケーキで、まとめてお祝いしました。
お寿司もケーキも、一年前休業していた、くだんのデパ地下で買いました。
貝が好きな母のために、貝尽くしのお寿司です。
ケーキは、ユーハイムのイチゴのショートケーキにしました。
「カンブリア宮殿」で取り上げられたとポップに書いてあったからです。
母は、ケーキはあまり好きではありませんが、イチゴのショートケーキだけは喜んで食べてくれます。
「ああ、美味しかった」
お腹一杯になったところで、確かに、美味しいものを食べて、一時でも幸せな気分になれたこと、「美味しいね」とことばを交わす相手がいることが、なによりのことに思えてきます。
満足そうにお寿司をほおばる母を見ていると、きっと母も今日は発散できているはずだと思えます。
一年前と何が変わったか、と聞かれても、新型コロナウイルスについてはよくわかりません。
前を向くとか、前進するとか、そんなことばが嘘っぽくて何の意味もないように聞こえてしまうときは、とりあえず好きなものを食べる。
そのあとはできることをするしかないな、とそんなふうに思うのです。