初回投稿日:2021/08/14/181800
王道でいて破天荒、「してやられたり」と言ったところでしょうか。
本書は1992年に講談社ノベルスから刊行されました。
ガリレオ先生のような名探偵(?)も加賀恭一郎のような名刑事も出てきません。
映像化も舞台化もされていない推理小説です。
そして、タイトルから想像できるとおり「密室」トリック小説です。
読み終えたときに思ったのは「東野圭吾ってスゴイ!」でした。
小説の冒頭で、数冊のミステリーのバイブルともいえる書名が出てきます。
1冊はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』で、もう1冊がヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』、それからエラリー・クイーンの『Yの悲劇』です。
アガサ・クリスティはイギリスの作家で、ヴァン・ダインとエラリー・クイーンはアメリカの作家です。
3人の作家の活動時期は多少前後しますが、小説を読んだことはなくても「タイトルは知っている」という人もいらっしゃるでしょう。
本書では、これら3作品について深く言及することはありません。
ただタイトルだけが小説の始めの方で、一度使われただけです。
しかしながら、本書に使われた推理小説の古典は、幾層にもなって物語を支えます。
言い換えるなら、この3作が最後の最後まで物語に影を落としているので、本書の状況設定以上に胸がぞわぞわして読者は物語にのめり込んでいくのです。
お見事!と言うしかありません。
余談ですが、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』は何度も映画化や舞台化、ドラマ化されていますが、初の舞台化のときには、舞台上で登場人物がすべて殺されてしまうのはいかがなものか、ということで小説とは違う終わり方が選ばれたそうです。