昨夜は久しぶりに母の入浴を予定していました。
ところが、壊死していた足指にやっと新しい皮膚や爪が再生し始めたばかりで、長らく続いた不自由な生活に慣れてしまったのか、湯船に浸かることへの恐怖心が勝ってしまったらしく、いざお風呂という段階になって「お母さん(お風呂に入るのは)怖いわ」と言います。
入浴が困難になってからしばらくは患部を洗って薬を塗るだけで精一杯でしたが、やがて濡れタオルで身体を拭き、ドライシャンプーで頭皮の清潔を保つようになりました。
春頃からは汗ばむ日も増え、それだけでは衛生面が不安です。
仕方なく、せめて週に一度はシャワーで全身を清潔にするように努めました。
もちろんシャンプーも一緒に行いますが、美容室のようにはいきません。
シャンプーハットやケープ、浴室用のクッションなど、必要なグッズを揃えて臨みました。
壊死が始まった頃から歩くのが難しくなり、母は美容室へ行くのをやめてしまいました。
「もう、お母さんは歳をとったから、あなたがカットしてくれたらいいのよ」
美容室の予約をキャンセルするときは切なさを覚えましたが、そのころから母の言動も不安定になってきていたので、安堵もしたのです。
ヘアカット用の道具も一式揃え、恐る恐る、本当に少しずつ、母の髪を私が切るようになりました。
先日、壊死が一番ひどかった指の爪が剥がれ、壊死部分がかさぶたになって取れたので「こんな生活からようやく解放されるかも」と思ったのも束の間、現実はそう甘くはありません。
入浴を嫌がる母に無理強いするわけにはいかないので、昨夜の入浴は取りやめ、これまで通り泡石鹸で足を洗ってパジャマに着替えさせました。
寝る前には目薬です。
目薬は2種類あり、5分の間隔を空けて順に差します。
その合間に、血圧と体温も測ります。
最近は目薬を差すのにも慣れてきて、母のまぶたも上手に開けられるようになりました。
ただ時折、黒目がぐるりと動くと、ハッとします。
ある晩、母が急に笑い出したので「お母さん、目薬さすとき黒目が見えるけど、私のこと見えてるの?」と聞くと、「あったりまえよ!しっかり見えてるわ」と返されました。
昨晩も目薬を差そうと母の瞼を開くと、母がにやりと笑います。
それがあまりに不敵な表情だったので「お母さん笑わないでよ。怖いわ」と言って、ふたりで大笑いしました。
母の様子を見ていると、明日には入浴できそう…そう思った矢先、突然母が、左腰の痛みを訴え始めます。
立ち上がるのも辛そうで、右肩にも痛みがあると言います。
長い間右足をかばって左足に負担のかかる生活を送っていたうえ、以前から痛みを訴えていた左肩も、結局きちんとした治療は受けられていません。
便通の不調も続いていて、うずくまってお腹をさする母を見ていると、一気に体のあちこちに不調が噴き出してきたようで、正直、とても怖かった。
こういうときは循環器内科だろうかと、急いでパソコンを開き、近くのクリニックを探しましたが、母は受診を拒みました。
今の状態で大腸の検査が受けられるのかもわからず、しかも主治医の病院には専門医がいないようで、漢方薬で凌いできたままです。
勝手に受診して良いものかの判断もつきません。
母の「大丈夫だから」の言葉を信じるしかなく、昨夜はそのままやり過ごしました。
高齢者の体調は、本当に不安定です。
いったん崩れると、立て直すのは至難の業だと、改めて痛感しています。
そんな不安な夜が明けた今朝、母は珍しくも自力で起きて歯を磨いていました。
その姿を見て、心の底から安堵しました。
おまけに、珍しく新聞に挟まれていたチラシにじっくりと目を通しながら、「このパンツ履きやすそうねえ」とか「これは、感じがいいわねえ」などと、衣料品に興味を示している様子を見ると、まだ大丈夫かも、と小さな希望さえ見えてくるようです。
昨夜のことが嘘のような光景に、平穏な日常の尊さを感じた朝でした。