迷子の日記。行ったり来たり。

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2025年8月17日――でしゃばりおよねに注意して!

 

みんなに無視される

母はここ数日、「上(の階)に誰かいる」とか「みんな」といった言葉を口にしなくなりました。これは、私が毎日「ここ(家)は、お母さんと私の二人暮らしだからね」と伝えている成果なのか、それとも、言わないほうがいいと思っているのかは分かりません。
そんな母が、今日、久しぶりに「みんな」と言いました。

最近の母は、異常と言っていいほどよく眠ります。朝はたいてい7時半ごろまで寝ていて、食後も横になります。本当は30分ほどで起きてほしいのですが、大抵1時間くらいは眠るのです。そして、起きると決まって少し不思議なことを言います。


それが珍しく今朝は、起こさなくても7時頃には起きて、言わなくても歯も磨きました。「今日は冴えている日かしら?」と少し期待しましたが、やっぱり朝食後も昼食後も眠くなって横になりました。

「いつもと同じなら1時間は余裕ができる」そう思って、久しぶりAmazonプライムで『名探偵ポワロ』を観ていました。

不思議とこういうときに限って、母は30分と経たずに起きてきます。残念ながら今日も例外ではありませんでした。
いつものようにじっと私を見るので「まだお茶には早いから、もう少し待ってね」とテレビのスイッチを入れて「私は今、ポワロさん観てるからごめんね。ちょっと(お母さんの声が)聞こえなくなるからね」とイヤホンを入れます。

「オッケー」と軽快に答えながらも、母が私をずっと見つめるので、仕方なくドラマを止めて「少し早いけどお茶にする?」と聞いてみると「まあ、みんな忙しいから、お母さんのことを無視するのよ」と少し不満げに言ってきます。

「みんなって、誰?」と訊くと「さあ、分からない……あら?みんなじゃないわねえ」と言います。「コーヒー淹れようか」と言うと「うれしこと言ってくれるわねえ」とパッと顔がほころびました。

誰かからの忠告

「みんなに無視される」と言った前だったか後だったか……母が「夢の中で誰かに忠告されたのよ」と言いました。
「何て言われたの?」と訊くと、「いらないことは言わないほうがいいよって」と答えます。
「ほら、お母さんって、あんまり考えずにしゃべってしまうところがあるじゃない。それがトラブルのもとになることがあるから、きっと言われたのね」と続けます。

夢にしてはリアルなので、「誰に言われたか覚えてる?」と訊いてみると、しばらく考えて「うーん……分からないわ……そんなこと言うのは……あなたしかいないわよねえ……あら?あなたはそんなこと言わないわよねえ」と、もそもそとつぶやきました。

基本的に、私は母に何か行動を制限するようなことは言わないように気をつけています。もし、忠告したのが私だと言われたら、どこがいけないのかと悩むところでした。

 

でしゃばりおよねの話

ここ一週間、連日で夕方に雷鳴が鳴り響きます。今日も「ああ、また来た」と遠雷に辟易としていたところ、台所のロールカーテンと窓枠との数ミリのすき間から稲光が見えだしました。
――私は異常な雷恐怖症で、遠雷が聞こえただけで手足の指先に電流が流れたかのようにビリビリと感じるほどです――

怖くて家事の手が止まってしまったとき、母が突然、妙な話をはじめたのです。


「昔はねえ、『でしゃばりおよね』っていうのがいてねえ、あっちとこっちをくっつけて……(おにぎりを作るような仕草をしながら)あっちやこっちに放り投げる、恐ろしい時代があったのよ」

――まるで怪談話でもするかのような話しぶりと奇妙な話の内容に、後になって録音しなかったことを悔やみましたが、その時はちょうど雷が鳴っていたので、そんなことは到底無理でした――


母はなおも続けます。

「あっちとこっちをくっつけて、人間爆弾にして放り投げるの。こうやってね」
握ったおにぎりをアンダースローで投げる仕草をします。

初めは何のことを言っているのかさっぱり分かりませんでしたが、聞いているうち、だんだんと分かってきました。

母が子供の頃、母が暮らしていたあたりの大きな川のほとりに、バラックというのでしょうか、掘っ立て小屋を建てて、どこから来たのか土地の人でない人たちが住みだしたらしい。戦後の話です。

そこの住人のなかに世話焼きのおばあさんがいて、地元の年頃の女性と、流れ者で家を持たない年頃の男性を引き合わせて結婚させていたようです。

中学受験に失敗した母は、そのまま家事手伝いで家にいて、そこに目をつけられて父と見合いをさせられたと、何年か前に聞いたことがありました。


けれど、よく考えれば、時代が合いません。バラックが建っていたのは、母がまだ小学生に上がる前くらいのはずです。


母のお見合いは、適齢期を過ぎるのを恐れた母や周囲が、仕方なく応じたのではなかったかしら。
戦争中に両親を亡くした父は、長女に連れられて兄弟で故郷を捨ててやってきた、確かに「流れ者」の家庭だったはずです。


父と出会う前、母には「いいなあ」と思っている人がいたらしいけれど、その方は肺が悪くて結婚には至らなかった、と一度だけ聞いたことがありました。


お見合い話を持ってきたのは、祖母が親しくしていたご近所の方だと思っていたけれど、違ったのかしら……。そういえば、以前にも「近所におせっかいなおばあさんがいて、家付き娘を見つけては、どうしようもない男と見合いをさせていた」と話したことがありました。聞きながら、父が気の毒になったことを思い出します。

 

そんなことをあれこれ考えながら母の話を聞いていると、「あなたは知らないだろうけれど、昔は歌があったのよ」と突然歌い出しました。

「でぇしゃばりおぉよねぇに手を引かれ、あぁいちゃんは太郎の嫁になる」

ん?……違う、何かが違うでしょ?

 

昔、私がまだ小さかった頃、テレビで聞いたことがある気がする古い歌謡曲に似ていますが、決定的に何かが違う……。

なおも母は続けます。
「親が知らないうちに若い娘がいなくなることもよくあった……警察は何をしてるの、とお母さんは言いたいよ。でしゃばりおよねを捕まえてって……ぼおっとしてたらみんな人間爆弾にして放り投げられる、そんな、恐ろしい時代がありました」

話は突然終わりましたが、私の頭の中は『でしゃばりおよね』でいっぱいです。

ああ、恐ろしい。お母さん、私眠れなくなりそうです。