【映画の紹介】『望み』
初投稿日:2022/03/05/231853
※本映画(小説)は、ミステリーです。今回、結末を書いてしまっているので内容を知りたくない方はご注意ください。
映画『望み』の公開は、2020年10月9日です。
原作は雫井脩介(しずくい しゅうすけ)氏の同名小説。
監督は堤幸彦氏で、
主人公の石川一登(いしかわ かずと)を堤真一さん
妻の石川貴代美(いしかわ きよみ)を石田ゆりさん
長男の石川規士(いしかわ ただし)を岡田健史さん
長女の石川雅(いしかわ みやび)を清原果耶さん
が演じています。
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外からは平穏に見えても、内実は夫の浮気や息子の引きこもりなど問題を抱えている家庭は多い。
けれど、舞台となる石川家の家族は、長男が事件に巻き込まれるまでは本当に穏やかでした。
ある日、息子は家に戻らず行方が分からなくなります。
息子は高校のサッカー選手でしたが、怪我が原因で引退し、素行が悪くなります。
良くない仲間と夜遊びして帰って来ないこともしばしばです。
「一晩帰らないからと言って騒ぎ立てるのは」と話していたところテレビで地元の殺人事件のニュースが流れてきます。
殺されたのは息子の高校の同級生で、被害者はもう一人いるらしい。
逃げた犯人は複数いて、特徴が息子と合致する。
家族の関係や家族を取り巻く周囲の状況が瞬く間に変わっていきます。
設計士をしている夫は、施主から設計の依頼を断られ、施工中の家を担当する工務店からも一緒に仕事はできないと言われます。
中学3年生の妹は、予定していた受験校の出願をあきらめなければならないかと悩むのです。
学校では殺人事件の話でもちきりで、兄が事件に関わっているのではと陰口を叩かれるようになり、徐々に学校にも塾にも行きづらくなります。
連日のように家にはマスコミが訪ねてきて、外壁には落書きや生卵がぶつけられるなど心無い嫌がらせが続き、家族は追い詰められていくのです。
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無実の罪を着せられたり、犯罪加害者の家族になったりするドラマ(映画)では、必ずわきまえのないマスコミや正義を振りかざす市井の人々の様子が描かれます。
厚かましくて思慮分別のない様子はまさに暴力そのもので見ていて非常に不愉快ですが、1つの型のように描かれるということは、実際にも同じような状況があるということなのでしょう。
けれども、現実にはそのようにして取材・撮影された情報で私たちは事件のことを知るのかもしれないと思えば、単純に批判したり否定したりすることは矛盾している気もします。
ここぞとばかりに関係のない人が事件現場や関係者の下を訪れるのは、理解できないのですけれど。
映画では、追い詰められた時の家族それぞれの心情を象徴的に描いています。
夫と娘は「たとえ命を落としていたとしても被害者であってほしい」と願い、妻(母)は「たとえ人を殺していたとしても生き長らえていてほしい」と願う。
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映画は、家族が再生していくことを示唆して終わります。
ただし、息子は加害者ではありませんでした。
そして、死に際の様子、事件に巻き込まれる前の前向きに生きようとしていた姿をあるジャーナリストを通じて知るのです。
家族が日常生活を奪われていく様は胸が締め付けられるようでしたが、物語の終わりについてはいろいろと考えさせられました。
なぜ息子を犯人として描かなかったのか。
なぜ息子の生きた背景を詳らかにしたのか。
なぜ、ひたすらに息子の生存を信じる母親にしたのか。
息子が被害者で、本当は前向きに将来を考えていて、母親は世界中を敵に回しても我が子を愛する。
これが基盤になければ、家族の再生はなかったのでしょうか。
それぞれの迫真の演技が、急にリアリティというよりファンタジーに感じられました。
映画を観ていたときは確かに終わり方に安堵したのです。なのに、振り返るとリアリティが突き詰められていない物足りなさが残ります。
原作を読んでから、もう一度考えてみたいと思います。