初回投稿日:2021/12/01/110652
山本文緒さんが亡くなったことを知ったのは、我が家でとっているローカル新聞の文芸欄でした。
そういえば、かつて彼女の本を1冊だけですが読んだことがあります。
『恋愛中毒』
たしか昔、薬師丸ひろ子さん主演でドラマ化もされていたはずです。
当時はまだ「ストーカー」という言葉が、今のようには浸透していなかった気もするのですが、正確なところは分かりません。
ドラマの記憶は断片的で、オンタイムで観たのかVODで観たのかさえ思い出せませんが、退廃的なオレンジ色の照明のバーと薬師丸ひろ子さんの真っ赤な口紅が印象に残っています。
そして、何より鹿賀丈史さんが素敵でした。
それまでは、過激で癖の強い俳優のイメージで特に追いかけて見ることはなかったのですが、なぜか『恋愛中毒』の中では最高に格好良かった記憶があるのです。
ちょうどこの小説がテレビドラマになっていた頃、山本文緒さんは『プラナリア』で直木賞を受賞なさいます。
それから、しばらくして鬱病を発症し、長くペンを持つことができなかったと、確かそんなことが記事に書かれていました。
『ばにらさま』は、公式に発表された山本文緒さんの最後の作品です。
本書には、6編の短編小説が収められています。
- ばにらさま
- わたしは大丈夫
- 菓子苑
- バヨリン心中
- 20×20
- 子供おばさん
小説に登場する女性は、年齢も立場もバラバラです。
最近はやりのレトリックを使った時系列バラバラ系の物語があれば、静かに主人公の生活に入り込める物語もあります。
どの物語にも共通して流れている「不安定さ」は、最後まで冷静に読者としているはずだったわたしを取り込んでいきます。
きっと、読む人ごとに取り込まれるタイミングは違うのでしょうけれど、本を閉じてふと我に返ったときに「なんとかなるさ」と思えているのが不思議です。
『子供おばさん』の最後はこう締め括られます。
私は週に五日仕事にゆき、休日は犬の散歩と買いだしをし(中略)風呂の中で推理小説を読んだりする。日常に倦むことはない。
何も成し遂げた実感のないまま、何もかも中途半端のまま、大人になりきれず、幼稚さと身勝手さが抜けることのないまま。確実に死ぬ日まで。
人生を表現するのにこれ以上のコトバがあるだろうか、と思った一節でした。