迷子の日記。行ったり来たり。

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【本の紹介】『十字路が見えるⅣ北斗に誓えば』by 北方謙三

今週のお題「最近読んでるもの」

北方謙三さんといえば、「ハードボイルド小説の作家」が思い浮かぶのですが、残念ながら私はハードボイルドはほとんど読んだことがありません。正確には、北方謙三さんは歴史小説も書かれているのですが、「ハードボイルド小説作家」と思い込んでいたので、手に取る機会がありませんでした。
いわば私には縁のない作家であった北方謙三さんがエッセイを書いていらっしゃるなんて、ちょっとした驚きだったのです。

 

 

装丁はいたってシンプル。タイトルの「十字路が見える」はもちろん、副題の「北斗に誓えば」もどこかしらハードボイルドっぽい響きがあります。

 

偶然手にした、名前しか知らない作家のエッセイ集です。ページをめくるまで、小説なのかエッセイなのかさえ知らなかったのです。偶然とは本当に不思議なもので、理由もなくパラパラと眺めて、エッセイだと気づいた途端、俄然興味が湧いてきました。


最初が地図と海図の話。
作家は博識だ、とつくづく思います。
しかも、地図だけでこれだけ話が広げられるなんて。

そう思いながら読んでいると、いきなり「おい、君」と呼び掛けられる。え、私?そもそもエッセイって一人語りの散文ではないの?

そのまま読み進めていると「事務所の女の子」と出てくる。・・・む、む?これは今はNGな表現なのではないかしら?

さらに読み進めていくと、LINEを送ることを、SNSというのかSMSというのかで悩んでいる。

おじさんだ。北方謙三って、たまらなく、おじさん、なのです。

 

お酒に関するエッセイでは、「バーマン」という単語がさらりと出てきます。
ウイスキーが似合う筆者ですが、「バーマン?」と思ってしまう私などは「やっぱり、(北方謙三って)ちょいワルだ」とつい思ってしまいます。

 

旅に関するエッセイは、本領発揮といったところでしょうか。現地の人たちとの何気ない交流でさえ、どこかしらワイルドです。
たとえば、草原の緑生い茂る様とそこに生息する野生鹿(ヘラ鹿)の描写では、「ヘラ鹿などは夏の間にそれ(緑)を食ってうまくなる」とさらりと言ってのけるのです。(『草原を求めて駈け回ってみたが』)

 

誰もが経験しえない日常を切り取ったエッセイばかりではありません。先のLINEの話もそうですが、寄る年波で躰のあちこちが痛くなった話や、冷凍食品が意外に美味しかった話など、身近な人が普通に世間話をしているようです。

 

なかには、呼びかけが「君」から「地球」に変わることがあります。地球に呼びかけるときは「怒っているのだな」と続くので、同時代に生きている、不安を共有しているのだと実感しました。


「君」の呼びかけに馴染んだ頃には、エッセイを読んでいるのではなく、カウンターで話しているような気になってくるのは不思議です。

 

本書を片手にお酒など飲んで、たまには夜更かしするのもいいかな、と思えてきます。

 

北斗に誓えば (完全版 十字路が見える)』は、北方謙三ファンの方々はもちろん、よく知らない方々の北方謙三デビューとしてもおすすめの一冊です。