ご近所付合いは難しい!煩わしい!ゴミ出しひとつも悩ましい!
朝6時。外はまだ暗い。
今日は可燃ゴミの収集日です。ゴミ出しの時間は「日の出から8時まで」と町内会で決められています。東の空の奥の奥がほんのり白み始めたころゴミ出しに行くのは、少しだけフライングですが、ルール違反をするには理由があります。
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隣の山田さん(仮称)は86歳の女性で、ご主人は90歳を過ぎていらっしゃいます。高齢のご夫婦二人暮らしの生活は大変なことも多く、週1回は二人の息子さんが交互に様子を見に来ていらっしゃいます。
向かいの大島さん(仮称)は82歳。お子さまが独立してご主人が亡くなってからしばらくは一人暮らしをなさっていました。面倒見の良い方ですが、ゴミ捨ての途中で躓いて転んだことをきっかけにお子さまの一人との同居を決め、引っ越しなさいました。
大島さんがお引っ越しなさるとき、母を誘って山田さんの家でお茶会をしました。そのときにお二人から言われたのが、「これからは山田さんのお世話はSAWAさんお願いね」ということだったらしいのです。母(83歳)は、自分の病気が厄介であちこち通院しなければならないこと、娘(私のこと)は母の世話と家事で忙しいことを伝えて、母曰くは「やんわりと」お断りしたと言います。
まだ、母はステロイド剤を大量に処方されていて、今よりもさらに歯切れが悪く、足元もおぼつかなかったころなので、どれほど伝えられたのかはわかりません。
その日を境に、山田さんは雨の降る朝7時に(ドアホンではなく)玄関ドアを激しく叩いて「開けて、開けて」と叫んだり、うちに人が来ると勝手に門を開けて入ってきて「なにを話してるの」と家の中に入ってこようとしたり、驚く行動をとりはじめました。
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大島さんは、思い出の詰まった家は売りたくないと、ときどき帰って来られて庭の手入れなどなさっています。帰る度、娘さんの洋菓子店のケーキを手土産にうちを訪ねてくださっていました。
今年の春ごろだったでしょうか、久しぶり大島さんが来てくださったとき、母が山田さんが大変だと話そうとしたら、いきなり山田さんが玄関を開けようとします。
大島さんを玄関に招き入れて、すぐ鍵をかけたものだから、開かない玄関ドアのノブをガチャガチャ言わせながら「開けて、開けて」とドアを叩くのです。
「SAWAさん、SAWAさん」と叫ぶものだから、慌ててドアを開けようとする大島さんに「もう、うちは山田さんは無理です」と母も叫ぶように言いました。
それ以来、大島さんはうちにはいらっしゃらなくなり、病院帰りに偶然お会いしても、逃げるように踵を返してそそくさといなくなられます。
どのような気持ちでそのようになさるのかは分かりません。誤解があったのか、山田さんの目を気にしてなのか。ただ、なんとも後味の悪い思いだけが残ってしまいました。
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山田さんは、それまでも、気に入らないことがあると、いろいろなことをしてきていました。例えば、うちの玄関ポーチにホースで水を撒いたり、使い捨てマスクを庭に投げ入れたり、回した回覧板の我が家の印鑑の上に自分の印鑑を押して戻して来たり。
玄関ポーチは庇があるので、よほどの雨でなければ濡れることはありません。新聞を取りに出た母が足を滑らせかけた時は警察に相談しようかと悩みました。
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今年の春先、給湯器が壊れたことをきっかけに、お風呂をタイル貼りからユニットにリフォームしました。母のヒートショック対策です。
脱衣室の向かいが、ちょうど山田さんの家の客間になると知ったのは、例のお茶会のときでした。
リフォーム前には気になったことはありませんでしたが、リフォーム後、いつからか、入浴のタイミングで山田さんの客間のカーテンが全開にされ、煌々と電気がつくようになったのです。
それまでは白いカーテンの色が摺りガラス越しに見えていたのに、脱衣室の電気をつけるとサッとカーテンが開いて電気がつくのです。
人影がどれほど見えるのかは分かりませんが、決して気持ちの良いものではありません。
しばらくすると、(脱衣室の電気をつけるつけないに関わらず)入浴前にはカーテンが開くようになりました。
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話をゴミ出しに戻すと、それまでは7時前だったのを今年の8月頃から5時過ぎにゴミを出しに行くようになったのですが、最大の理由が山田さんでした。
いつからか、ゴミを出そうと家を出ると山田さんが玄関先で待っていたり、行きがけに会わなければ帰りに鉢合わせするようになったのです。
一度は「一緒に持って行きましょうか」と言いかけて「結構よ」と驚くほど大きな声で断られ、一度は「おはようございます」と挨拶をして「ふんっ」と首を大きく横に向けられ、朝一番にふさわしくないことが続きました。
さすがに憂鬱になって、早朝ゴミ出しを始めたのです。
i-am-an-easy-going.hatenablog.com
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リフォームのついでにドアホンを新調し、防犯カメラを設置しました。それからはマスクの投げ入れや、不審なゴミが門のそばに置かれることはなくなりました。
うちの前を通るときに、フェンスに顎を乗せて我が家の庭を眺める山田さんの姿もなくなり、朝のゴミ出しのタイミングも分かるようになりました。
絶対に山田さんに会わない時間のゴミ出しで、爽やかな一週間の始まりがしばらく続いていたのです。
それが、今朝。6時少し前に階下に降りると、山田さんの玄関に明かりがついています。嫌な予感がしましたが、廊下の電気を点けて、出かける支度をします。玄関を出て、鍵をかけ、門までいくと「ガラッ」と勢いよく山田さんの玄関の扉が開きました。
一瞬ひるみましたが、私がびくびくするのはおかしい。私はビビリだ。しっかりせよ。
そう思って門扉を開けると、「ピシャッ」と扉が閉まった音がしました。
小走りでゴミを出して戻ると、バシャッと塀に水を打ち付けるのがわかりました。なにかぶつぶつ言っているようでしたが、挨拶はもちろん、山田さんの姿を見ることもなく、新聞を取り出して急いで家に入ったのです。
玄関モニターには、まだ薄暗い中、手押し車でゴミを運ぶ山田さんの姿が映っていました。
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私の住む町内のごみの収集日は月曜日と木曜日です。山田さんは、木曜日はいつも8時前にゴミを出しに行っているようです。
我が家は、木曜日は母の通院と重なることが多いため、ひとまとめにして月曜日にゴミ出ししていました。これからは、木曜の早朝にゴミは出そうと思います。